1.はじめに

 予防接種に関する事故、過誤、ヒヤリハット例は、接種側の何らかの不注意によるものが多く、予防接種の事故等の防止には、接種に関わる人たちが「予防接種ガイドライン」および「予防接種と子どもの健康」をよく理解しておくことが重要です。
 法令やワクチンの添付文書等を守らずに予防接種を実施したことによって健康被害が生じた場合には、接種を行った医師や実施主体の責任を問われる場合があることについて留意しておかなければなりません。
 この手引きは、予防接種時の間違いを防止するために特に確認するべき事項をとりまとめたものです。


2.フローチャート

(1)個別接種

(1)個別接種の図

(2)集団接種

(2)集団接種の図


3.確認チェックリスト

A.受付時の確認事項
□ 1) 対象者を住所、フルネーム、年齢、生年月日で確認する。
□ 2) 予防接種の種類と回数を確認する。
□ 3) 対象者がワクチンの対象接種年齢であるか確認する。
□ 4) 接種歴を確認する。
□ 5) 直前の予防接種実施日からの間隔を確認する。
□ 6) 予診票の質問事項がすべて回答されているか確認する。
□ 7) 検温を行い、記録する。

B.問診時の確認事項
□ 1) 対象者を住所、 フルネーム 、年齢、生年月日で確認する。
□ 2) 予防接種の 種類と回数 を確認する。
□ 3) 対象者がワクチンの対象接種年齢であるか確認する。
□ 4) 接種歴を確認する。
□ 5) 直前の予防接種実施日からの 間隔 を確認する。
□ 6) 接種前の 検温 を確認する。
□ 7) 予診票の記載に 漏れ があれば確認する。
□ 8) 診察を行い、体調を確認する。
□ 9) 医師署名欄にサインする。
□ 10) 保護者(インフルエンザの場合は「本人」)の承諾サインをもらう。

C.接種時の確認事項
□ 1) ワクチンの 種類 および 有効期限 を確認する。
□ 2) ワクチンの外観を確認する。
□ 3) ワクチンの吸引前によく振り混ぜる。
□ 4) ワクチンの 接種量 を確認する。
□ 5) 接種方法を確認する。

D.接種後の確認事項
□ 1) 使用済み注射器は適正に廃棄する。
□ 2) 予診票、診療録、母子健康手帳、老人健康手帳などに接種日、メーカー名、ワクチンロット番号、接種量、医療機関名などを記載する。
□ 3) 予診票を回収したか確認する。
□ 4) 接種終了後の注意事項を説明する。
□ 5) 副反応にそなえ、必要者には接種後30分待機させる。

E.ワクチン保管の確認事項
□ 1) 不活化ワクチン、BCGは冷蔵庫、ポリオ生ワクチンは冷凍庫、他の生ワクチンは冷凍庫または5℃以下の冷蔵庫に保管する。
□ 2) ワクチンの種類別に整理し、使用予定数を確保しておく。
□ 3) 有効期限までの日数が長いものは奥に、短いものは手前に置く。
□ 4) 保管庫の温度を記録する。

(集団接種の準備)
F.事前の準備での確認事項
□ 1) 予防接種の実施日時と会場を決める。
□ 2) 接種対象者(保護者)に案内通知する。
□ 3) 接種対象者の数により、必要な人員(医師、看護師、事務職員など)を確保する。
□ 4) 出務医師のリストを作成する。
□ 5) 救急用具、救急薬品を揃える。
□ 6) 必要ワクチンの本数を確保する。
□ 7) ワクチンの有効期限を確認する。
□ 8) ワクチンの保管条件を確認する。
□ 9) 必要な注射器(針)またはピペットの数を確保する。

G.当日の準備での確認事項
□ 1) 担当医師に接種開始時間の10分前までに会場に到着するように連絡する。
□ 2) 救急用具、救急薬品を会場に運ぶ。
□ 3) ワクチンの種類および有効期限を確認する。
□ 4) ワクチンの管理条件を確認する。
□ 5) 搬出ワクチン量を確認する。
□ 6) 搬出注射器(針)またはピペットの数を確認する。
□ 7) 搬出注射器(針)またはピペットの有効期限を確認する。
□ 8) ワクチンを保管庫から取り出し、注射器(針)など必要物品とともに会場に運ぶ。
□ 9) 十分余裕をもって会場に出発し、接種会場を設定する。

H.予防接種液の調整
□ 1) ワクチンの種類および有効期限を確認する。
□ 2) ワクチンの外観を確認する。
□ 3) ワクチンを吸引前によく振り混ぜる。
□ 4) 滅菌済トレイ、滅菌済ガーゼ、滅菌済ピンセット、滅菌済手袋、消毒用アルコール綿等を利用して汚染しないように取り扱う。
□ 5) 皮下注射するワクチンの場合は一人分ずつ規定量を注射器に詰める。
□ 6) BCGの場合は添付溶剤で均等な懸濁液を作る。
□ 7) ポリオワクチンは使用直前に融解する。
 チェックリストについては接種予定人数分コピーを用意し、対象者ごとにチェックを行う。


4.医師がチェックする確認事項の解説

B.問診時の確認事項

1) 対象者を住所、フルネーム、年齢、生年月日で確認する。
 予防接種実施要領8.接種対象者の確認(1)に、「接種前に、予防接種の通知書等接種該当者であることを証する書類の提示を求めるなど、適当な方法により当該予防接種を受けるべき者であることを確認すること」と記載されており、受付時に本人・保護者の申し出、診察券、予防接種通知書、予診票、母子健康手帳、老人健康手帳などの照合で確認しているが、 医師が再度チェック する。
 同姓同名の者がいる場合、複数の同胞が一緒に来院した時は特に注意しなければならない。付き添ってきた接種対象者でない同胞に誤って接種しないよう気をつける必要がある。

2) 予防接種の種類と回数を確認する。
 受付でもチェックしているが、医師が再度予防接種の種類を確認する。
 予診票の色とワクチンラベルの色を統一することにより、異なったワクチンを接種してしまうという間違いは少なくなったと思われるが、地域によってはまだ予診票が異なっており、予防接種の相互乗り入れを行っている地域では特に注意しなくてはならない。
 また、異なったワクチン接種を希望する同胞が一緒に来院した時も注意しなければならない。数種類のワクチンを机上に置かず、これから接種しようとする一人分のワクチンだけを用意することも間違い防止対策として大切である。
 接種直前に保護者にワクチンを見せ確認させれば、間違いを未然に防ぐことができ、保護者も安心する。

3) 対象者がワクチンの対象接種年齢であるか確認する。
 接種対象年齢でない者が接種を受けにくることがある。この場合、予防接種法に基づく定期接種には該当せず、任意接種扱いとなる。
 13歳は日本脳炎の接種対象年齢外のため注意すること。

4) 接種歴を確認する。
 既に接種済みの予防接種を忘れて再度接種を受けにくることがある。接種前に母子健康手帳、カルテ等をチェックすることにより、接種済みであることを保護者に告げることができる。

5) 直前の予防接種実施日からの間隔を確認する。
 ワクチン相互の間隔が不十分であるにもかかわらず予防接種を受けにくる場合がある。「不活化ワクチン接種後は1週間以上、生ワクチン接種後は4週間以上あける」という文章だけを読んで、前回のDPTワクチン接種後1週間目に次のDPTワクチンを受けに来たり、1回目のポリオワクチン接種後4週間目に2回目のポリオワクチンを服用しに来るケースがある。これらは接種前に母子健康手帳やカルテをチェックすることにより、未然に避けることができる。

6) 接種前の検温を確認する。
 予防接種実施規則第6条に「明らかな発熱を呈している者は接種不適当者」とされている。自宅で検温した時に熱があれば、通常予防接種を受けに来ないが、熱がないと思って来院しても、接種前の検温で発熱に気付くことがある。国分寺医師会予防接種センターの報告によると、23年間の延べ利用者92,136名中接種前の検温で発熱に気付き、接種を見合わせた例が214名(0.2%)いた。
 予防接種前の検温結果が記載されていないと、適切な対処ができなくなるおそれがあるので、注意すること。

7) 予診票の記載に漏れがあれば確認する。
 問診事項は、安全に当該接種が可能であるか判断する重要な資料である。
 医師としては、予診を尽くし、できる最大限の努力をして、接種を受ける者の体調を確認することが大切である。

8) 診察を行い、体調を確認する。
 予防接種は緊急時を除き、体調の良い時に行うものであり、接種前に診察を行い体調を確認する事が大切である。国分寺医師会予防接種センターでは、前述の発熱者の他に、接種前の診察で、上気道炎231名、気管支炎61名、発疹・じんま疹出現中38名等をチェックし、接種を延期したと報告している。

9) 医師署名欄にサインする。
 特に集団接種会場で複数の医師が実施している場合は、責任所在を明らかにしておく必要がある。

10) 保護者の承諾サインをもらう。 (児童への集団接種の場合は、保護者の印をもらう。)
 記載漏れがあると、市町村の担当者より問い合わせがあったり、予診票が戻されることがある。
 保護者の意思確認が必要であるので、接種を受けることの了解欄に「〇」をしてもらい、保護者のサインをもらっておくこと。


C.接種時の確認事項

1) ワクチンの種類および有効期限を確認する。
 ワクチンの有効期限をチェックし、 期限切れワクチンは使用しないように する。特に、生ワクチンは有効期限が過ぎると力価が低下し、接種しても十分な抗体価が得られない可能性がある。
 有効期間の短いワクチンは多量購入しないように心掛ける。また、有効期限に近いワクチンは冷凍庫・冷蔵庫の手前に保管し、有効期限に近いワクチンより順番に使用するとよい。

2) ワクチンの外観を確認する。
 ワクチンの製造過程で異物が混入し、メーカーが同ロットのワクチンを回収したことがある。異物の混入は極めて稀な事態であるが、使用前に外観をチェックする習慣をつけておくことは大切である。

3) ワクチンを吸引前によく振り混ぜる。
 DPTワクチン、DTワクチンなど沈降ワクチンでは、有効成分である不溶物がバイアルの底に沈みやすいので、吸引前によく振り混ぜることが必要である。
 使用直前に凍結乾燥ワクチンを溶解液で溶かす場合も、十分溶解し、均等になるよう心掛ける。

4) ワクチン接種量を確認する。
 「日本脳炎予防接種において、接種量が0.25mLである3歳未満の児に0.5mL接種してしまった」「小学6年生にDTワクチンを通常(0.1mL)の5倍量(0.5mL)接種してしまった」という事例がある。II期接種である小学6年生にDTワクチンを0.5mL接種すると、局所反応が強く出る可能性が高くなるので、注意しなければならない。
 B型肝炎ワクチンは10歳未満0.25mL、10歳以上0.5mL、インフルエンザワクチンも1歳未満0.1mL、1〜6歳未満0.2mL、6〜13歳未満0.3mL、13歳以上0.5mLと年齢によって接種量が決められている。

5) 接種方法を確認する。
 多くのワクチンは皮下接種であるが、BCGは管針による経皮接種、ポリオ生ワクチンは経口接種で行われる。誤ってBCGワクチンを皮内注射、ポリオ生ワクチンを皮下注射した例があった。
BCG接種 は上腕伸側のほぼ中央部(三角筋下端部)に接種する。上腕のそれより 肩峰に近い部分 はケロイド発生率が高いので 避けなければならない 。(最終頁の「 BCGの接種の位置 」を参照)
 「BCG接種を受けたが接種痕が出ない」との訴えがよくある。BCG接種後10日頃から個々の針痕部位に小さな発赤や膨瘤が生じ、接種後1ヵ月頃で最も強くなるもので、1ヵ月しても出ない場合は接種のやり方に問題がある場合がある。考えられることは、(1)酒精綿で消毒した後アルコールが蒸発乾燥する前にワクチン液を滴下してしまった場合、(2)幅1.5cm、長さ3cm程度に管針のツバでワクチン液を延ばさず押し付けた場合、(3)キャップを付けたまま押し付けた場合、(4)押し方が弱かった場合などである。接種皮膚面を緊張させて押せば、通常免疫が得られるものである。
 BCG接種は2回押して18コの針痕をつけるが、1回しか押さないと9コの針痕しかつかない。


D. 接種後の確認事項

1) 使用済み注射器は適正に廃棄する。
使用済み 注射器を入れるトレイと、 未使用 注射器を入れておくトレイの置く場所を離したり、トレイの種類を変えるなど、 両者が混在しないように する配慮が必要である。
 集団接種会場で30人に接種後、使用済みの注射器の数を確認したところ29本しかなかったという事例がある。
 個別接種では、殆どディスポーザブルを使用しているので、その都度袋を破いて取り出し、使用後すぐ廃棄すれば間違うことは防止できる。

2) 予診票、診療録、母子健康手帳、老人健康手帳などに接種日、メーカー名、ワクチンのロット番号、接種量、医療機関名などを記載する。
 予防接種の記録を残しておくことが大切である。予防接種歴が明らかであれば、余計な予防接種をしないで済む事もあり、接種間隔が不十分であれば接種を延期させることもできる。また、被接種者に 予防接種の記録(母子手帳等)は一生保存しておくよう指導 する。海外への留学の際に予防接種証明書が必要となるが、母子健康手帳に記載があれば証明書発行が可能である。
 市町村では予診票の記載を参照して予防接種台帳に記録を残すが、記載不備だと個別接種医療機関に問い合わせが行われる。カルテにも記録を残しておけば、市町村からの問い合わせに答えることができる。

3) 予診票を回収したか確認する。
 保護者が予診票を持ち帰ることが時々ある。予診票は市町村において5年間保存することとなっているので、回収して市町村へ提出(コピーでも可)することが必要である。

4) 接種終了後の注意事項を説明する。
 追加接種時には局所反応が強く出ることがあるが、通常は自然に軽快するので心配する必要はない旨説明する。上腕全体や肘を越えて前腕までおよんだ場合や、心配するような事が起きた時は連絡するよう指導する。
 ポリオ生ワクチン接種後の2次感染に注意しなければならないが、通常は常識的な処置でよい。よだれのついたよだれかけ等をこまめに洗濯し、いつも清潔に保ち、おむつをかえた後は流水でよく手を洗う。薬用石けんを使用すればなお良い。

5) 副反応にそなえ、必要者には接種後30分間待機させる。
 接種直後に帰路についた被接種者が、帰宅途中で全身性副反応を起こし、救急車で搬送された事例がある。
 副反応出現が予想される者に対しては、異常反応を認めた時にすぐ対処できる所にいるよう指導する。
 アナフィラキシーショック、けいれん、心停止、自律神経性ショック、じんま疹、嘔吐に対して応急処置(予防接種ガイドライン参照)を行い、必要あれば救急車で救急病院に搬送し、市町村および医師会に連絡する。
 救急薬品は常備しておく。救急用具も常備しておくことが望ましい。また、事故発生時には近くの医療機関より応援医が駆け付ける態勢をとっておくのもよい。


E. ワクチン保管の確認事項

1) 不活化ワクチン、BCGは冷蔵庫、ポリオ生ワクチンは冷凍庫、他の生ワクチンは冷凍庫または5℃以下の冷蔵庫に保管する。
 不活化ワクチンは凍結を避けて10℃以下で保存すると定められており、BCGも10℃以下にて保存のため、冷蔵庫にて保管する。
 ポリオ生ワクチンは−20℃以下で保存のため、冷凍庫に保管される。長期に保管する場合はディープフリーザーが望ましい。
 その他のウイルス生ワクチンは5℃以下で保存のため、冷凍庫で保管しても冷蔵庫で保管しても良い。しかし、長期に保管する場合は、冷凍庫の方が望ましい。

2) ワクチンの種類別に整理し、使用予定数を確保しておく。
 ワクチンの種類別に保管場所を決め整理しておくと、在庫本数が一目瞭然であり足りなくなりそうな時にすぐ補充ができる。接種希望者に対して、在庫が無かったが為に接種できないで帰宅させることのないようにしなければならない。

3) 有効期限までの日数が長いものは奥に、短いものは手前に置く。
 期限切れのワクチンを使用しないために、有効期限が近いものより順番に使用する。そのためには、ワクチン毎に有効期限までの日数が長いものは奥に、短いものは手前に置くようにすると便利である。

4) 保管庫の温度を記録する。
 特に生ワクチンは、温度管理を誤ると急激に力価が低下するので、定期的に保管庫の温度をチェックし、記録する。


5.事例から学ぶ事故予防対策

 予防接種に関する事故等を防止するためには、過去に発生した事故事例を振り返って対応策を検討することが有効です。ここでは、過去に報告された事例および実際には報告されていないが発生する可能性がある架空事例を内容ごとに分類して例示し、このような事故を防ぐための工夫策等について解説を加えました。
 なお、万が一、予防接種に伴い何らかの事故が発生した場合には、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(1)予定外のワクチン接種(ワクチンの取り違え)

1) 間違いの事例
 例) 日本脳炎ワクチンの接種予定者にDPTワクチンを接種した。
 例) 同胞が同時に受診した時に、接種予定児以外の児に接種した。

2) 背景
 予定されたワクチンと異なるワクチンを接種しそうになった(あるいは接種した)経験のある医師は、接種医の37.5%であったとする報告があります。その状況を列挙します。
(1)  看護師などがワクチンをシリンジに充填する段階での間違い。
(2)  同胞が同時に受診し別々のワクチン接種を行う際の取り違い。
(3)  呼んだ児と違う児が診察室に入ってきた。
(4)  別の児のカルテ・予診票・母子手帳などを渡された。
(5)  トレイ内に複数個の充填されたシリンジが置かれていて、誤ったものを選んだ。

3) 事故を防ぐための工夫策
 ワクチンや接種児の取り違いを起こさないようにする工夫策の例を示します。
A)  診察時および接種時に改めて児(あるいはその家族)に口頭で接種されるワクチンと児の名前をフルネームで確認する。
B)  対象者が決められた接種年齢であること及び接種歴を確認する。
C)  カルテ、予診票、母子手帳への記入、接種ワクチンのラベルの貼付などを完了してから接種を行う。
D)  トレイは接種児一人ずつ専用にし、接種ワクチン液を充填したシリンジの傍に内容を確認できるバイアルを置いておく。あるいはシリンジにワクチン名のラベルを貼付するか記入する。
E)  接種児一人ずつに対して問診・診察・ワクチン充填・確認・接種を完結するよう努める。
F)  受付時に予診票は回収せず、対象者(保護者)に持たせておき、対象児と予診票とがセットで動くようにする。
G)  ワクチンの種類に応じた色のリボンなどを用意し、児に持たせ(付ける)、子どもがどのワクチンを接種するか確認しやすいようにする。

4) 事後の対応
 ワクチンや接種児の取り違いを起こした場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、対応を協議してください。


(2)接種量の誤り

1) 間違いの事例
 例) 小学校6年生児にDTワクチンを0.5mL接種した。
 例) 3歳未満児に日本脳炎ワクチンを0.5mL接種した。

2) 背景
 接種量を間違いそうになった(間違って接種した)経験のある医師は35%との報告があります。ワクチン別では、インフルエンザワクチンが多く、次いでDTワクチン、日本脳炎ワクチンの順でした。その要因は、接種児の年齢を間違えた、接種量がワクチンの種類や年齢により異なることを忘れていた、多人数に接種していた際に間違いそうになったなどです。

3) 事故を防ぐための工夫策
 接種量の間違いを起こさないようにする工夫策を示します。
A)  接種児の年齢を保護者あるいは本人に口頭で確認する。
B)  予診票やカルテに接種量を記載してから、シリンジにワクチンを接種量だけ充填する。
C)  確認しやすい場所に接種量の表を貼っておき、その都度確認する。
D)  シリンジに年齢と接種量を記入する。

4) 事後の対応
 接種量の間違いを起こした場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(3)接種方法の誤り

1) 間違いの事例
 例) ツベルクリン反応時にBCGを皮内接種した。
 例) BCGワクチン接種で2回押すべきところを1回しか押さなかった。

2) 事故を防ぐための工夫策
A)  保管庫からのワクチンを取り出すとき、接種会場でワクチンを受けとるときなど、当日使用予定のワクチンかどうかをその都度確認する。
B)  予診票の色とワクチンの色を照合する。
C)  とくに集団接種会場では、ワクチン添付文書をわかりやすい位置に置き、接種医には接種前に当日のワクチンの種類、接種法、接種部位、接種量など担当者が説明し、再確認してもらう。

3) 事後の対応
 接種方法の間違いを起こした場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(4)予診票確認の不備

1) 間違いの事例
 例) 発熱者へ接種した。
 例) 予診票の記載不備が接種後に判明した。

2) 背景
 予防接種不適当者へ接種をしそうになった(または接種した)経験のある医師は14%との報告があります。その内訳は発熱者への接種、免疫不全・免疫異常を起こす薬剤治療中の児への接種、免疫グロブリン治療後、予診票の記載間違いや未記入および見落としなどです。

3) 事故を防ぐための工夫策
 予診票確認の不備を起こさないようにする工夫策を示します。
A)  予診票中の質問事項がすべて回答されているかどうかを確認する。
B)  回答欄に「いいえ」があれば備考欄に問診医の判断を記載する。
C)  診察前の体温、住所・氏名・年齢を口頭で確認し、チェックを記載しておく。問診内容を確認しながら医師記入欄にチェックをいれていく。
D)  問診・診察終了後、今日の予防接種は(可能・見合わせる)どちらかに○をつけ、医師のサインを行う。
E)  保護者に予診の結果を聞いて今日の予防接種を受けますか(はい・見合わせます)のどちらかに○をつけてもらい、保護者のサインをもらう。
F)  使用ワクチン名欄にLot番号を記入またはラベルを貼付、接種量、実施場所・医師名、接種年月日を記載して予診票を完結させて、最後に接種できる場合は接種を行う。

4) 事後の対応
 接種後に予診票確認の不備が判明した場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(5)有効期限切れワクチンや注射器での接種

1) 間違いの事例
 例) 使用したワクチンが、有効期間を過ぎていたことが接種終了後に判明した。
 例) 注射筒や針が使用期限を過ぎていたことが終了後確認された。

2) 事故を防ぐための工夫策
 保管上や使用上の注意点を示します。
A)  ワクチン毎にLot番号順にまとめ、有効期限が記載されている側が見やすいように配置しておく。
B)  ワクチン受け払い簿にワクチン受け入れ時に有効期限を明示し、定期的にチェックする。期限切れワクチンは早急に処分しておく。
C)  ワクチンを受け取る時、使用ワクチンの種類とともに有効期限を確認する。
D)  ワクチン開封の際にも、有効期限を再確認する。
E)  使用する注射器や針の開封時に、使用期限を確認する。
F)  定期的に保管温度など管理状態およびワクチンの有効期限などを確認する。

3) 事後の対応策
 有効期限切れのワクチンなどを接種した場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(6)接種後の安全確保

1) 間違いの事例
 例) 予防接種会場にアンビューバックが用意されておらず、全身性副反応を起こした被接種者への措置が遅れた。
 例) 接種直後に帰路についた被接種者が、帰宅途中で全身性副反応を起こし、救急車で搬送された。

2) 事故を防ぐための工夫策
A)  集団接種会場には、アナフィラキシーショックの第一段階の治療として必要な呼吸循環の確保のため、酸素・アンビューバック、エピネフリン、注射器などを常備しておく。
B)  予防接種ガイドライン中に掲載されている救急対策備品を常備しておくことが望ましい。
C)  接種終了後30分間待機する理由を説明し、異常ないことを確認して帰宅してもらう。

3) 事後の対応
 接種後、全身性即時型副反応がおこった場合は速やかに救急処置を行ってください(予防接種ガイドラインの副反応と対策の項を参照)。軽快後、速やかに実施主体である自治体に連絡し、予防接種後副反応報告書の作成やその後の対応を協議してください。


(7)ワクチン保管の不備

1) 間違いの事例
 例) ワクチンが適切な保管条件下で保管されておらず、沈殿物のあるワクチンが用意された。
 例) ポリオワクチンを保管していた冷凍庫が故障して、ワクチンが全部解凍してしまった。

2) 事故を防ぐための工夫策
 保管上の注意点や工夫策を示します。
A)  ワクチン受け払い簿にワクチン毎の保管温度を確認・明示し、受け入れ時、受け払い時に保管状態を確認し、記録しておく。
B)  定期的に保管温度など管理状態およびワクチンの有効期限などを確認・記録する。最高・最低温度が記録できる自動温度計を取り付けておくことが望まれる。
C)  ワクチン溶解時や吸い上げ時に接種量の再確認を行うと同時に、不純物や空気混入の有無などの確認を行う。
D)  生ワクチンウイルスは、紫外線(日光)に弱く、速やかに不活化されるため、光があたらないよう注意する。
E)  使用前にはワクチン液をよく調べ、異常な混濁、着色、沈殿および異物の混入、その他、異常を認めたものは使用しないこと。
F)  凍結乾燥製剤の溶解は、接種直前に行い、一度溶解したものは直ちに使用する。防腐剤を含有する製剤は当日中に使用し、シリンジ製剤や防腐剤を含まないワクチンは再使用しないこと。
G)  確認・参考のため、ワクチン添付文書をわかりやすい場所に置いておく。

3) 事後の対応
 保管の不備を発見した際は、直ちに回収し、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


(8)集団接種における事故

1) 間違いの事例
 例) 集団接種会場で、接種済みの児が動線の不備などで再度接種した。
 例) 30人に接種後、使用済み注射器の数を確認したところ、29本しかなかった。

2) 事故を防ぐための工夫策
A)  とくに集団接種会場では、当日の流れをスタッフ全員が熟知しておく。
B)  対象者のフルネーム、年齢、接種予定ワクチン、接種量などを予診票に沿って確認し予診票記載がすべて終了後、接種を行う。
C)  接種終了後、予診票を確実に回収する。
D)  当日の接種予定者数に応じたワクチンおよび注射器を準備する。
E)  使用済み注射器と未使用の注射器の混在がないようなトレイの配置を行う。

3) 事後の対応
 集団接種会場で上記のような不測の事態が起こった場合は、速やかに実施主体である自治体に連絡し、その後の対応を協議してください。


参考文献
1) 鳥谷部 真一、内山 聖:予防接種の間違い事故およびそのニアミスに関するアンケート調査.厚生科学研究医薬安全総合研究事業;安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究平成14年度研究報告書P335-340,2003.
2) 市町村のための予防接種間違い防止マニュアル.千葉県・千葉県医師会2001.



参考 BCGの接種の位置

参考 BCGの接種の位置の図