1才半のK君は、急に腕を痛がってうえに上げられなくなったといって外来にやってきました。よく聞くと、K君を持ち上げる時に暴れたもので、結果的に腕を強く引っ張ってしまったそうです。急に泣き出して、その後手を全然動かさなくなってしまいました。「ばんざいしてみて」と言ってみても、普段はよろこんで手を挙げるのに、その時は片方の手しか挙げることが出来ません。肘を押さえて腕を曲げるようにして整復(直すこと)しますと、もの凄く泣いていたK君がすぐケロっとなりました。これは典型的な「肘内障(ちゅうないしょう)」の臨床経過です。
肘内障とは、子供の手を急に強く引っ張ったりしたときなどに、肘の関節が亜脱臼してしまった状態です。予防は、子供の手を強く引っ張らないことに尽きますが、日々の生活の中でこれを守るのはなかなか難しいことです。正直いって、小生も息子の肘を2度抜いた過去を持っています。抜けた瞬間に整復しましたが家内には気付かれてしまいました。あるお母さんから尋ねられた「絶対に抜けない引っ張り方」なんてのはありませんが、気をつけることを少し述べますと。
1.子供に予期させること。予期せずに引っ張られると、関節を支える筋肉が充分に働かないのではずれやすくなります。大人からみれば、ある状況で手をひっぱることが充分予測できる場合でも、子供からみると、全く予期しない出来事である場合があります。引っ張りたいときには、少しずつ力をいれる方がいいでしょう。引っ張り始めてから、最大力になるまでにゆっくりと。グッと引くのではなく、グーーーーッとね。
2.だだこねのときは、引っ張らない。「ぶらんぶらん」や、「逆さ吊り」のときは、かかる力の大きさは、高々子供の体重です(ふりまわしたら別)。しかし、だだこねのときは、子供の方も渾身の力で引っ張るし、親も、それに見合う力で引くので、思わぬ大きな力がかかります。こんなときは、引っ張るのは避けましょう。
あまりにも簡単に整復するので、整復の方法を教えてほしいといわれることがあります。肘内障は、経緯を正確に聞き取れば、医者にとって診断は難しい物ではなく、何の道具もなく整復出来る事がほとんどですが、それでもいわゆる「鑑別診断」が不可欠です。
骨折ではないか(転倒などで起こった肘の痛みは顆上骨折のこともありますから整復後にも痛みがあったりするとレントゲンが必要なこともあります)、別の関節の脱臼ではないか、骨髄炎ではないか、単なる筋肉痛ではないか、その他もろもろ。やはり自己判断ではなく、受診して診察を受けた上で整復してもらったほうがほうがよろしいでしょう。
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