薬は飲まないですむものなら、飲みたくないし、飲ませたくない。私はつねづね、そう思っています。


 抗生物質は、最初、フレミングという細菌学者が「青カビのまわりにはばい菌が増殖しない」という事実を発見したことに始まり、今日、50種類以上にも及び、細菌を代表とする「微生物その他の発育を阻害する物質」と定義されています。

したがって「かぜ」はウイルスが原因であるという一般的常識にしたがえば、かぜの治療に抗生物質は必要ではないということになります。しかし、臨床的に「かぜ」(WHO の国際疾病分類でいう「急性鼻咽頭炎(かぜ)」)と診断されるもののなかには5〜10%細菌およびその他の微生物の感染症が含まれているもの事実です。ゆえに、いわゆる「かぜ」の治療には原則的に対症療法のみで充分ですが、ときに抗生物質が必要となる場合があります。

 では、どんなときに抗生剤が必要となるのかといいますと、原則として細菌やマイコプラズマやクラミジアなどの病原微生物の感染が考えられるときと、二次的にそれらの感染を合併している場合です(例外として、特別な基礎疾患があり予防的に抗生剤を細菌感染が明らかでないうちから予防的に投与される場合もあります)。

具体的には、鼻かぜはほとんどがウイルス性なので、まず抗生剤は処方しません。たとえ熱が高くても(40度以上の発熱があっても)、かぜ症状のみで全身状態が良ければ、かぜ薬と解熱剤の頓服のみで経過をみてよいでしょう。例えば、当院ではインフルエンザ(典型的なウイルス感染症)には、たとえ40度の高熱がでていても、合併症がなければ抗生剤は処方しません。抗生物質が処方されるケースと思われるのは、診察上細菌感染症が証明された場合です。例えば、二次的に気管支炎や肺炎を起こしていると考えられるとき、鼓膜に所見があり中耳炎の合併があるとき、膿性の鼻汁があり副鼻腔炎の合併所見があるとき、咽頭所見等よりA群溶連菌感染症と診断されるときなどがあげられます。また、1歳以下(特に生後4ヵ月未満)の乳児や、なんらかの理由(病気やその治療など)で抵抗力が低下している子には、発熱があれば、積極的に細菌感染の有無を確認するための検査をするとともに、抗生物質の使用を考える必要があります。
 「現在、日本の医者はかぜに抗生物質を使いすぎているのではないか」と指摘されることがあります。率直に言ってその通りだとおもいます。常日頃から抗生物質の使用は必要最小限にし、いざ必要と考えられるときは最適と考えられる抗生物質を充分使用するという方針で診療しております。保護者の皆さんにはいわゆる「かぜ」の実態をよく理解していただいたうえで、かぜのときには抗生物質を使用しない方針を充分理解していただき、かつ診断のための積極的な検査の実施について納得をしていただけるように説明してゆきたいと思っております。