麻疹は強い感染力を有する急性熱性発疹性疾患です。基本的に飛沫を介するヒトからヒトへの感染で、空気感染も重要な感染経路です。感染性は非常に高く、感受性のある人(免疫抗体を持たない人)が暴露を受けると90%以上が感染します。

【疫 学】

麻疹は、日本国内で毎年地域的な流行が反復しています。2歳以下の罹患が60%以上を占めており、罹患者の95%以上が予防接種未接種です。重症例、肺炎の合併が年間4800例、脳炎は年間55例、死亡例は年間88例程度と考えられます。発症予防には麻疹ワクチンが有効ですが、残念ながら国内での麻疹ワクチン接種率は80%程度にとどまっていると推定されます。


【麻疹の臨床症状】

<前駆期(カタル期)> 

麻疹ウイルスは麻疹患者の咳の飛沫、鼻汁などを介して気道、鼻腔および眼の粘膜上皮に感染します。伝染力が強く、初感染時には不顕性感染はなく必ず発症します。

感染後に潜伏期10〜12日を経て発症します。この時期は38℃前後の発熱が2〜4日間続き、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、くしゃみ)と結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が現れ次第に増強します。発疹出現の1〜2日前頃に頬粘膜に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm径の白色小斑点(コプリック斑)が出現し、これが診断に有用です。


 <発疹期>
カタル期の発熱が1℃くらい下降した後、再び高くなるとともに発疹が出現します。発疹は斑丘疹で、毛髪線から始まり、顔面、頚部に出現し、その後遠心性に手足に向かって広がります。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5℃以上)が3〜4日間続き、発疹は次いで暗赤色となり、出現順序により退色する。発疹期にはカタル症状は一層強くなり、特有の麻疹様顔貌を呈します。発疹は5〜6日持続した後、出現したのと同じ順序で消退し、あとに色素沈着を残します。

 

患者の気道からのウイルス分離は、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、発疹出現時を最高として次第に減少し、第5〜6発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されません。この間に感染力をもつことになります。予防のための医学的隔離期間は発疹出現後5日までとされています。また、麻疹は学校保健法による第二種伝染病に分類され、出席停止期間の基準は、解熱した後3日を経過するまでとされています。

 

【麻疹の合併症】

麻疹に感染すると体の免疫能が低下し、それに伴った細菌の二次感染による合併症、結核の顕性化が認めます。約30%の患者が一つ以上の合併症をおこすと言われています。

(1)肺炎:麻疹の二大死因は肺炎と脳炎です。肺炎は6%におこると報告されております。麻疹ウイルスそのものによるウイルス性肺炎、細菌による二次感染であり 細菌性肺炎、肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じる巨細胞性肺炎(重症、予後不良)などがあります。

(2)中耳炎:麻疹患者の約5〜15%に合併します。乳様突起炎を合併することがあります。

(3)クループ症候群:喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多く、呼吸困難が強い場合は気管内挿管による呼吸管理が必要になります。

(4)心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがあります。

(5)中枢神経系合併症:1000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併します。患者の約60%は完全に回復しますが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、死亡率は約15%である。

(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE):麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患で、知能障害、運動障害が徐々に進行し、発症から平均6〜9カ月で死の転帰をとる予後不良の疾患ですが、米国では麻疹ワクチンの普及により激減しました。発生頻度は麻疹罹患者の10万例の1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人とされています。

 

 


 直ちにできる現実的な方法は、1歳の誕生日を過ぎた子どもたちはなるべく早くMRワクチン(麻疹風疹混合
ワクチン)接種を行い、1歳児の麻疹ワクチン接種率を向上させ(95%以上の達成が必要)、まず麻疹の全体数を抑えることであります。

 次に、小児への麻疹の2回接種があげられます。 ワクチン接種を受けたにもかかわらず抗体が減弱していくことによる麻疹発症を予防すること、すなわち、小学校入学前にMRワクチンを追加接種することにより免疫能を高く且つ長期的に維持することにより予防をはかることです。

 

 

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